EXCERPT
聲を掛けると、兵はピタリと立止まつた。
聲の掛るのを待つてゐたのかと思はれる。
髯むしやの大男で、襟の裂けた服を着て、衝立つてゐる。
銃を持つてゐなかつた。
ズボンは釦一つで支へてゐて、その綻びの切目から白い肌が透いて見える。
手足が頽然とだらけるのを、だらけさすまいと氣を張つてゐるけれど、もう其も叶はぬ。
一つに寄せた手が直ぐとダラリと左右に垂れる。...
Leonid Andreyev - 血笑記
血笑記
Leonid Andreyev
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Description
EXCERPT
聲を掛けると、兵はピタリと立止まつた。
聲の掛るのを待つてゐたのかと思はれる。
髯むしやの大男で、襟の裂けた服を着て、衝立つてゐる。
銃を持つてゐなかつた。
ズボンは釦一つで支へてゐて、その綻びの切目から白い肌が透いて見える。
手足が頽然とだらけるのを、だらけさすまいと氣を張つてゐるけれど、もう其も叶はぬ。
一つに寄せた手が直ぐとダラリと左右に垂れる。
